3月8日(日)7:30~8:00
シリーズ・ふるさとの手仕事⑤
『城下の心意気 左官』
◆◆◆ふるさとの遺伝子を探る30分◆◆◆
皆さんが好きな金沢の町並み・風景はどこですか?
今回は城下町らしい風情を作り出す左官職人の手仕事です。
◎金沢には土の壁が似合う
伝統的な茶屋洋式の町屋が並ぶ、ひがし茶屋街。
国重要文化財の志摩に入ると、艶やかな朱壁が出迎えてくれます。
「芸どころ金沢」を支えるお茶屋さんの客間は、
紅柄を混ぜた、しっとりと落ち着きのある朱壁が使われています。
この座敷などに使われる壁は、土物(顔料)と砂、そして海藻の糊を
混ぜて塗っていく「糊ごね」という手法が用いられています。
ひがし茶屋街で最も古い建物と言われているのが、蛍屋。
近年、料亭としてよみがえりましたが、ここの壁を手がけたのが
左官職人の中村康(こう)さんです。
最初に案内された部屋では、壁にくり貫いたような穴があります。
よく見ると、断面が何層にもなっているのが分かります。
この「糊ごね」の良さは、何度でも塗り重ねられること。
つまりこの層は、建物の歴史そのものなんですね。
ちなみに金沢では鮮やかな「群青壁」がよく知られていますが、
ほとんどは明治以降のもので、藩政時代の群青壁は、
ただ1か所、成巽閣にだけ残っています。
13代・斉泰(なりやす)公が、母・真龍院のために作った建物は、
当時、豪華絢爛そのものだったに違いありません。
今回、特別に撮影させていただきました。
歴史ある優美な空間をぜひ見てみてください。
◎驚き!左官の芸術
左官職人の中村さんに案内されたのは、とある街の土蔵。
ここに巨大壁画のような彫刻が施されています。
職人が鏝(こて)という道具だけを使って
仕上げたという「鏝絵(こてえ)」です。
立体的に描かれた松竹梅と富士山。
このうち、松は先人が作ったもの。そのほかは中村さんが修復しました。
土蔵の反対側へ行くと、そこにはレリーフのようになった龍が施され、
下部には「網代紋」と呼ばれる文様の海鼠壁が存在感を示しています。
金沢城の海鼠壁とは一味違う手仕事にビックリ!
中村さんいわく、「腕の立つ、頭のいい職人の仕事」だとか。
この鏝絵は、土蔵を手がけた職人がお礼などを兼ね、
自分の技を残していくというもので、
龍の形や、そのまま「龍」、「水」といった文字がかたどられます。
これは火事除けのおまじないなんだそうです。
皆さんも町で土蔵を見かけたら、鏝絵がないか探してみてください。
思わぬ形のものを見つけたときは、ちょっとうれしくなってしまいます。
まさに「左官が芸術」になったような感じですですが、
中村さんが勤める会社では、左官職人の技を駆使して、
新たな世界を作り出しました。それが「左官アート額」。
四角い額の中に、これまであった左官の技法を使い、
様々な美の表現をしています。
これはフランス・パリで開かれたインテリア見本市でも注目され、
そのデザインを実際に応用した建物も、金沢に登場しました。
手間と時間のかかる先人の技がなかなか現代の建物に
活かされることはありませんが、これも一つの文化。
城下町の心意気を残していきたいものです。
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【リポーター】平見夕紀