私の左手の甲には傷があります。肉じゃがを見ると思い出します。
1982年、私は東京都中野区本町6丁目で、下宿生活をしていました。
生まれて初めて、自炊しました。「肉じゃが」を作りました。
共同の台所で、慣れないまま、鍋を使っていました。
その最中、自分用に引いたばかりの「電話」が、初めてかかってきました。
火を止めて部屋に戻り、電話をとりました。
私に対する人生初めての電話は、間違い電話でした。
どこかの獣医さんと間違えてかけてきたものでした。
電話を切って、台所に戻りました。驚きました。
私の肉じゃがの鍋に、ネコが頭を突っ込んでいました。
追い払ったら、ネコはうなりながら、立ち向かってきました。
ネコは、私の左手を引っかいて、逃げていきました。
「あいつも、生きるために必死だったのだ」
そう思いながら、まだ出血する左手を押えつつ、
初めての肉じゃがを食べました。
とても美味しかったです。